講評

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論題

BM登龍門Ⅲ 第1試合
「論題:日本政府は、首都機能を移転すべし」

講評:奥山真

肯定側:Kings(ディベーターN・ディベーターB)
否定側:Glads(牧・本間)
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数 13名
肯定側 63.38P(9票) 否定側 54.74P(4票)

■<概   略>
肯定側は構成のすっきりとした立論で、メリット立証に多くの時間を割く、正統派スタイルでスタート。一方否定側は、噛み合うディベートを展開するも、デメリットの論証不足は否めない。前半戦の時点で否定側不利となるものの、否定側第一反駁、最終弁論で踏ん張り、試合的には肯定・否定の攻守が入れ替わる見ごたえのあるディベートとなった。
しかし、ディベート的には肯定側メリットの立証を崩しきることができず、またデメリットを守りきれず、肯定側の完勝であった。

■<肯定側立論>
◇哲学、理念
 『東京一極集中の是正』

◇プラン3点
 ┣①首都機能(政府、国会、最高裁判所、中央官庁)の一括移転
┣②移転コスト14兆円
 ┗③移転先は、国会等移転審議会答申の候補地から選定する

◇メリット2点
 ┣①経済発展
 ┗②国家的危機管理能力のアップ

メリットは2点とも立証されたと判断した。
シンクタンクの試算やGDPとの比較、また東京地区の大地震(M6~7)の発生確率などを定量的に示すことで、メリットが具体化し、メリットの重要性を明確化できた点は優れている。
また、阪神大震災の復旧に向けて、短期間に16本の立法活動が行われた実績を示し、 発生過程を強化した点も大きく評価できる。
肯定側ディベーターNのプレゼンテーションは正に完璧、非の打ち所のない先制パンチを否定側にお見舞いした形。

■<否定側尋問>
否定側本間のキャラによるところも大きいと思うが、強気な肯定側の姿勢に対し、全体的に攻撃的な雰囲気のない尋問が気になった。観客には多少弱腰に映ったかもしれない。
内容的にはメリット発生過程を明らかにしようとしているのはわかったが、明確な回答を引き出すには不十分であった。Yes/Noをベースとした尋問で追い詰めていけなかったのが残念。

■<否定側立論>
◇デメリット3点
 ┣①財政赤字増加
 ┣②企業にコストを押し付ける
 ┗③将来のGDP低下

デメリット①と②に関しては、発生過程は説明されているものの、どの程度の深刻性があるのかを示す論証が全くなかった。判断基準も提示されておらず、デメリットの論証は不十分と判断した。デメリット③に関しては、東京と移転先の投資効果の違いを理由として、首都機能移転反対の立場を取ったが、やはり将来のGDPがどの程度影響を受けるのかがわからず、デメリットとしては非常に弱いものと判定した。

一方、メリット①「経済発展」に対しては、公共事業が必ずしも効果があがらない、と主張し、また雇用増加に関しては、東京から移転する機能が大きくなる訳ではないので、移転地で雇用が増加する訳ではない、と反論した。メリット②「国家的危機管理能力のアップ」に対しては、新しいビルは大丈夫であること、また非常時の体制が整っていること、の2点で反論した。
全体を通して証拠資料に乏しく、やや言いっ放しの感じの立論である点は非常に残念であった。ベテランディベーターである否定側本間には、この低いパフォーマンスに対して猛省を促したい。

■<肯定側尋問>
肯定側ディベーターBの攻撃的な尋問が光る。「非常時の体制」とは何かを具体的に追求するあたり、かなりのリサーチを行っている証拠である。残念ながら、肯定側第一反駁以降につながる有効な尋問はなかったが、「攻め」の姿勢を貫いた点は評価できる。

■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
否定側牧は初めてのBMディベート。立論の失点を補うにはかなりのスパークが必要であった。肯定側メリットに対する反駁を証拠資料を使って丁寧に反証していく。
ただ、引用が少し長過ぎたか、立論のアキレス腱であるデメリットの論証の補完ができなかった点が悔やまれる。
一方、肯定側ディベーターBはメリットの補強に注力、否定側立論のデメリットが弱いと判断し、メリットをきっちり再反駁しに行った形だ。NEC総研の証拠資料「ワールドカップのGDP効果との比較」によって、メリット①「経済発展」の重要性、インパクトを再強調できたのが大きい。
また、否定側の反論「建物は大丈夫」「非常時の体制は整っている」に対して、「交通網の混乱」で再反駁したあたりは事前シミュレーションの成果であろう。噛み合った非常に素晴らしい反駁の攻防を見ることができた。

■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
否定側牧の最終弁論においては、第一反駁の延長という位置付けではなく、否定側立論の再構成を心がけて欲しかった。再構成を行う際に軸となる否定側哲学が不在であった点も残念。次回以降の反省として欲しい。
その点、肯定側ディベーターNはお手本となるような最終弁論を展開した。反駁の応酬を踏まえて、争点の明確化と同時に自説の優位性を強く訴えることに成功。肯定側勝利を間違いないものにした。
否定側デメリット②「企業にコストを押し付ける」への反論を行っていたが、ディベート的にはニューアーギュメントとして判断、反論は無効とした。

■<判定と総括>
2点のメリットをがっちり守った肯定側の完勝。
否定側はデメリットの論証不足、哲学の不在により、ネガティブブロックを有効に活かせなかった点が、好ゲームであっただけに残念。

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