講評

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論題

BM登龍門Ⅲ 第2試合
「日本政府は、首都機能を移転すべし」

講評:中西夏雄

肯定側:Knights(ディベーターL・ディベーターM)
否定側:Kings(ディベーターN・ディベーターB)
【試合結果】:否定側勝利
ジャッジ総数 17名
肯定側 51.43P(6票) 否定側 61.96P(11票)

<講評をお読みいただく前に>
今回の論題においては、事前に「移転先は移転決定後に、候補地より選定する」という枠組みを設け、肯定側プランで候補地を限定しない前提としておりました。
しかしながら、BM登龍門Ⅲ第2試合においては、試合後に肯定側であるチーKNIGHTSへの連絡ミスが発生 し、この事実を知らないまま試合に臨んでいたことが判明しました。
これにより、チームKNIGHTSのプランが、枠組みから外れてしまっている部分がありますが、あらかじめご了承下さい。

■<概   略>
肯定側は、「環境立国の創造」を理念に、いかに首都機能移転が理念の実現をもたらすかを、切々と訴えていく内容。
対する否定側は、肯定側プランでは理念の実現はできないと同時に、現在の首都一極集中がむしろ望ましい状態であり、首都機能移転はその良さを失うものであること訴えた。

■<肯定側立論>
◇理念
 『環境立国の創造』

◇プラン5点
 ┣①首都機能移転→栃木へ
 ┣②コスト12.3兆円
 ┣③10年で段階的に移転する
 ┣④移転跡地は緑地化
 ┗⑤新首都はエコ都市に(省エネ、ゼロミッションなど)

◇メリット3点  ┣①理念の実現
 ┣②地震等による政治・経済の同時被災を回避できる
 ┗③東京都の住環境改善、避難場所の確保

 単純にプランからみれば、災害のインパクトが説明不足なため、メリット
②が立証できておらず、①③のみ立証したと判断した。

ただし、理念である「環境立国の創造」がなぜ今必要なのかが今ひとつ伝わってこないこと、さらに今回、事前取り決めされていた「プラン制限」があったため、プラン①、それに伴うプラン⑤は、一歩踏み込んだ議論となってしまうため、これによって発生するメリット①②は取らず、③のみ有効とした。

■<否定側尋問>
肯定側の論を「プラン制限」に抵触すると切り捨てずに、かみ合わせながら尋問を進めていく。
環境立国の理由は何なのか、移転地での森林伐採があるではないか…。
ここで肯定は、立国の理由を明確に回答できず、また伐採が発生することを認めざるを得なかったため、否定側は尋問のパートだけでメリット③だけを潰せばよくなっていた。

■<否定側立論>
◇理念
 『一極集中は良いことだ』

◇デメリット3点
 ┣①集積の利が損なわれる
 ┣②財政への打撃
 ┗③移転による環境破壊

①に関しては、首都機能と経済機能の結びつきがどの程度なのか、それが分離されることが、いかに深刻かを示せていないため、デ①は認めなかった。②に関しては、肯定側と異なる試算数値20.3兆円を引合いに、費用対効果に見合わないことを訴えたが、今ひとつ立証しきれていない。③に関しては、QAで立証されていると判断した。

そしてメリットへの攻撃では、
移転先の環境破壊→メ①
首都機能の防災能力の向上とBackup機能の説明で→メ②
移転跡地はあくまで点在しているもので、肯定側のいう利便性はない→メ③
とことごとく潰しが入った。

■<肯定側尋問>
残念ながら、肯定側尋問でなかなか自分達を有利に導くことができていない。 環境立国は良いか悪いか、移転で政治・経済中枢の同時被災は回避できるかなどと問われれば、YESと答えるしかない。しかし、YESの答えが肯定側を有利に導くのはあくまで、首都機能を移転してまで環境立国する必然性が語られ、同時被災回避にしても、被災する可能性が高いことが語られていることが条件といえよう。

むしろ、肯定側のひっかけ的なQである「首都機能と緑地公園のどちらが良いか?」に対し、一呼吸置いてから、「広さによる」と見事にかわした否定側の冷静さが光るパートであった。

■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
否定側は、肯定側がエコ都市を掲げようと森林伐採を認めている上で矛盾していること、首都機能の中心である地盤の強さ、首相官邸の耐震建築物への建替えにより防災上問題ないこと、点在している移転跡地では、肯定側のメリットとするような効果は生まれないことを述べた。
これに対し肯定側は、エコ都市がエコ都市となり得る理由を述べるが、やはり「候補地の決定」によってもたらされるため、有効にはできない。しかし、否定側が述べる首都機能の安全性、すなわちBackup機能が存在する立川が都心から30kmしか離れていないこと、また反駁に出てきた、首都機能中心地の地盤の強さにおける論証不足を上げ、反駁の面白さである応酬を見せてくれた。

■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
否定側は、肯定側メリット②③を再度攻撃したが、現在の防災能力が十分ということについて、新たな提示もなく、またデメリットのまとめもなかった。反駁までが素晴らしかったため、逆に残念な最終弁論ではあった。
肯定側は、ここに来てようやく環境立国を掲げる重要性を述べるも、時すでに遅し。また防災上問題ないとする否定側に対して、震源となるであろう中心から30kmしか離れていないBackup機能の脆弱性、阪神大震災時の迅速な対応が可能だったのは、首都機能が機能したからと述べることは良かったが、如何せん、南関東大地震のインパクトが全く語られていなかったため、深刻性があると判断することが最後までできなかった。

■<判定と総括>
残されたメリット③をつぶし、デメリット③を立証した否定側の勝利。
肯定側は、首都機能によって実現したい「理念」の必然性を訴えきれなかったこと、またそれが新首都建設のための森林伐採を上回る重要性があることを、伝えきることができなかった。しかし、「首都機能移転問題」で必ず理由の一つに上げられる地震対策といういわば消極的理由を超え、首都機能移転によって、こういうことが可能になるんだ、という積極的理由を基盤とした立論は、この論題の新たな一面に光を当てたといえよう。

否定側は、ややもすれば、すれ違いを生む肯定側の立論に積極的に絡んでいき、新人ディベーターとは思えない見事な応酬を見せてくれた。ただし、苦言を呈すれば、肯定、否定ともに立証不足が感じられ、肯定側はそもそも論題から考えた理念実現の必然性、現在の都市の脆弱性を述べるべきであった。
また否定側は、一極集中の利を述べるならば、首都機能と経済機能がどれほど密接で、両輪となってこそ「利」が発生すること、現在の都市の防災能力が既に十分であることを、もっと述べて欲しかった。

しかし、これがデビュー1回目のディベートとは、非常に楽しみかつ脅威となるディベーターの誕生を感じさせるものだった。

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