講評

講評

論題

BM2005 D-1 GrandPrixⅡ前哨戦
「ライブドアによるニッポン放送への敵対的買収は悪である」

講評:奥山真

肯定側:高澤・中村雅芳・ディベーターA
否定側:中西・中村貴裕
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数 18名
肯定側 61.02P(11票) 否定側 56.29P(7票)

■<概   略>
悪い企業買収(M&A)を3点から定義し、ライブドアによる敵対的買収(TOB)は日本の風土に合わないと主張する肯定側に対し、M&Aは国際化した経済の流れにおいて避けられないものであり、ライブドアによるM&Aは全て成功していると主張する否定側の戦いとなった。論題中の敵対的買収(TOB)の定義において、肯定側と否定側でズレが生じ、幾分噛み合わない戦いとなったが、プレゼンテーションやアピールの点に関しては双方とも素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。

■<肯定側立論>
◇哲学・理念:『TOBは日本の風土に合わず、根付かない』
◇定義:『悪いM&A』(以降、定義①・②・③と呼ぶ)
 ┣①社風の違う会社同士のM&A
 ┣②経営陣の意見や認識が折り合わないM&A
 ┗③モラルややり方を無視したM&A

ライブドアによるTOBが上記定義の3点全てに当てはまることを肯定側は丹念に、豊富な証拠資料を用いて証明していた。特に日本の風土に合わない点において、日本は『根回し文化』であり、それがスムーズな合意という効率性を生んできたという主張は説得力があった。また、双方の経営陣の意識や認識が全く合っていないことから、戦略的ではない、つまりWIN-WINとならない企業買収になってしまうリスクを指摘。モラルの観点では、時間外の株式取得が商取引上のルール違反になるという点、年間売上高300億円のライブドアがニッポン放送の株式取得にあたって800億円の資金調達を必要とする点を指摘、マネーゲームの様相を呈しているという主張はいずれも、『悪いM&A』を裏付けており、転職後久々の復帰戦となるディベーターAの落ち着いたプレゼンテーションもそれを助け、肯定側の先制パンチがヒットした形で試合はスタートした。

■<否定側尋問>
否定側尋問担当の中村(貴)はテンポがあったが、否定側主張につなぐ質疑のみに終始し、肯定側主張に対する質疑のないまま尋問を終えてしまった。肯定側と否定側のすれ違いはここから始まる。

■<否定側立論>
◇哲学・理念:『ライブドアによるTOBは双方にメリットをもたらし、日本企業に対する警鐘となる』

◇現状分析
 ┣①TOBは違法ではなく合法である
 ┗②M&A増加は国際的な動向であり、時代の流れである

◇ライブドアによるTOBの良い点(以降、メリット①、②と呼ぶ)
 ┣①ニッポン放送の経営改善
 ┗②日本企業に対する警鐘となる

メリット①に関しては、ライブドアによる16社に上るM&Aが全て成功してきた実績を証拠資料を用いて証明、買収した翌月には営業黒字を達成する証拠資料で、ライブドアの経営手法が優れている点を主張。過去に買収された企業(Cネット・ジャパン)の喜びの声も引用するなど、ニッポン放送のケースもうまくいくという類推を補強した。また、メリット②に関しては、企業価値=株式価値の低い日本企業は生き残れない、という警鐘を与えた点でライブドアによるTOBが価値があった点を訴えた。
一方、肯定側の定義に対する反論はなく。この時点で「悪」という概念に関して、肯定側定義が認められた形となり、肯定側有利が明らかになる。

■<肯定側尋問>
肯定側尋問担当の高澤はキレがあった。M&AとTOBが違う点を中心に尋問をまとめていく。定義におけるズレをうまくフォーカスした形となり、反駁⇒最終弁論へうまくつながっていく。

■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
劣勢を巻き返したい否定側だが、否定側立論の補強に終始した。「ライブドアにおけるTOBがうまくいく」、「企業防衛の意識が高まった」という否定側の主張を豊富な証拠資料で補強していったプロセスは見事であっただけに、「悪」という定義に対する反証がなかった点は残念である。
一方、優位に試合を進める肯定側だが試合を決めきれない。反駁の頭でM&AとTOBが違うことに触れた点は良かったが、「悪である」という概念に関して争点を明確化するべきではなかったか? 法的には問題がないとする否定側に対して、証拠資料を引用して、法的な抜け道を利用した株式取得であった点を強調できたのは大きかった。

■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
劣勢の否定側中西は、独自のパフォーマンスで試合を盛り上げる。日本の風土や文化も昔のままではいられないとする国際化の必然性を再度強調した上で、TOBをかけられたニッポン放送が無防備であった点を指摘。証拠資料で国際的な常識である点を補強した。構成的には逐次的で課題が残るが、劣勢をまったくオーディエンスに気づかせなかったパトスは注目に値する。

肯定側高澤の最終弁論は、試合を決定づけるにはお釣りが来るほど見事であった。構成、証拠資料はもちろんのこと、何よりも聞くものに安心感を与える落ち着いた語り口は、高澤独特のエトスと言える。否定側メリット二点を丁寧に反論、特に「日本企業に警鐘を与える」というメリット②に対しては、「警鐘つまり日本企業の危機感の裏付けとは、すなわち日本企業はTOBを受けたくないという表れであり、ライブドアによるTOBが悪であったことを裏付ける」とする見事なターンアラウンドが決まった。
「法的な観点」に関しても、肯定側第一反駁を受けて、「合法=違法スレスレ」という印象を強くアピール、否定側にトドメをさした格好となった。

■<判定と総括>
肯定側立証責任を果たし、かつ否定側が主張するメリット②をターンアラウンドした肯定側の勝利。否定側メリット①は残りそうに見えるが、今回の論題は、ライブドアによるニッポン放送に対するTOBを扱っており、過去の(敵対的でない)M&Aの成功事例からは類推できないと判断。
ディベート的には肯定側の勝利となったが、試合的には最終弁論までもつれる多いに盛り上がった展開となった。エンターテイメント・ディベートの可能性を感じさせてくれるナイスゲームと言える。

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