講評

講評

論題

BMファイナルカウントディベート2005  Semi Burning
「日本は、米国産牛肉の輸入を再開すべし。是か非か?」

講評:奥山真

肯定側:中村(雅) 
否定側:高澤、中村(貴)
【試合結果】:否定側勝利
ジャッジ総数 12名
肯定側 3票 (58.10P) 否定側 9票(62.17P)

■<概   略>
肯定側は、明確な基準による食の安全性を担保するのは国の義務であるとの立場。対する 否定側も肯定側と同様に「日本国民の食の安全性確保」を哲学に据え、BSE感染リスクと そのインパクトを強調して応戦。安全の定義こそ共有化されていたが、肝心のリスク分析 という観点で両者噛み合わず、互いに決定打にかける展開となった。

■<肯定側立論>
◇哲学:明確な基準に基づく食の安全性確保は国の義務
◇定義:『安全』とは変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)に感染しないこと

◇国際基準の比較
  米国、EU:30ヶ月齢以上のウシを全頭検査
  日本:20ヶ月齢以上のウシを全頭検査
 ⇒日本は国際基準に沿っておらず、また異常プリオンの99.44%は特定危険部位(SRM)に
  含まれており、SRMの確実な除去が安全性を担保すると説明。国産牛肉と米国産牛肉
  のリスク差は極めて小さいと説明

◇プラン
  ① 米国産牛肉の輸入再開
※輸入再開条件は食品安全委員会の基準に順ずる
  ② リスク評価委員会の設立
  ③ 国民に対する説明会開催
  ④ 監視チームを設立、輸入品の全品検査を行う

◇メリット
 M1. 安全・安価な牛肉が供給される
  現状分析)①供給不足から牛肉の値段が上昇している
       ②日本における牛肉消費量の伸び(=日本人の食文化にとっては必須)
発生過程)米国産牛肉の輸入再開により、供給不足が解消される

肯定側は、牛肉の安全性の指標となる国際基準およびプランの説明に時間を大きくロス。時間切れの為、メリット2点目を主張できないという大失態を犯す。肯定側立論は台本を準備できる唯一のパート、時間切れは正直ありえない。猛省を促したい。また、内容を見てみると、”米国産牛肉”の輸入が再開されなければならない理由については全く触 れられておらず、肯定側立証責任としては不十分と判断。肯定側プランによって、牛肉 の価格が安価になること以外のメリットが見えなかった。

■<否定側尋問>
ディベートマニアⅤに出場した高澤による反対尋問。 『安全』という言葉の定義を合わせた点、尋問量の多さ、テンポの良さは評価できるが、否定側立論⇒第一反駁⇒最終弁論につながる尋問がなかった。

■<否定側立論>
◇哲学:食の安全性の維持
◇デメリット
 D1. 食の安全が脅かされる
発生過程)BSE感染牛が日本に入ってくる可能性が上がる為
     ⇒プリオン調査会の証拠資料より、ウシの月齢判定ができない点および20ヶ月齢未満のウシからは異常プリオンを検出できない点を指摘。米国からBSE感染牛が日本に入ってくる危険性が上がると主張した。
     ⇒さらに、日本で21ヶ月齢、23ヶ月齢での若年BSE感染牛、またイギリスで18ヶ月齢のBSE感染牛が発見された例を挙げ、危険性が増す根拠とした。
  深刻性)BSE病原体は種の壁を超え、かつvCJDは100%死に至る病気
      ①ウシから人間へ飛び火する危険性
      ②ウシからウシへ感染拡大する危険性
      ③病原体の増殖およびvCJDの潜伏期間の長さ
      ④血液を媒介とした人から人への感染

◇メリットへの反論
 M1. 安全・安価な牛肉が供給される
  ⇒特になし
デメリットの証明にほとんどの時間を割く偏った構成。米国産牛肉が危なそうなイメー ジ(深刻性)の強調には十分な勢いのたたみかけであったが、定量的な評価という点に は全く触れておらず、”深刻性x発生確率=インパクト”という数式を鑑みた際、デメ リットの評価が難しかった。肯定側立論に絡んでいない点は大いに反省してもらいたい。

■<肯定側尋問>
論旨および尋問量共に不十分。折角のインタラクティブなパートもこれでは台無し。内 容も分かりづらくポイントとなる尋問はなかった。

■<否定側第一反駁>
デメリットの補強⇒メリットの反論という流れだが、本来は否定側立論にてメリットの反論を行わなければならない。メリットの反論はニューアーギュメントと判断。
 D1) ①米国の消費者団体も米国産牛肉の危険性を指摘している
   ②SRM以外からも異常プリオンが検出されている
   ③輸血におけるBSE対策が行われている
D1に関して上記の三点から補強が行われた。BSEとフグ毒の違いについても主張していたが、肯定側の主張を受けた形ではないのでポイントとしてはカウントせず。第一反駁セクションの大きな意義である”争点の明確化”がされなかった点が残念。ただし、米国の消費者団体のエビデンスを引用した点は秀逸。米国産牛肉の安全性に疑問を投げか ける意味で有効であった。

■<肯定側第一反駁>
メリットが大きく立てられなかった肯定側は、争点を”安全性”一本に絞り反論。

 D1) ①vCJD発生率は日本で1人未満、SRM除去により更に危険性は下がる
   ⇒限りなくゼロに近いリスク
   ②アメリカおよび日本でのvCJD発症例はゼロ

D1に関しては上記二点から米国産牛肉の安全性を主張するも、②の主張は事実と異なる為(米国、日本ともに1例ずつ発症例あり)無効と判断した。M1に対する補強を行うも、「牛肉価格が下がる」という主張の繰り返しとなった。

■<否定側最終弁論>
安全性の基準として、「一人でもvCJDで命を落としてはならない」と主張するが、「ゼロリスクはない」という尋問におけるやり取りの後では、空しく響くだけ。安全性に関して、アメリカの検査および管理体制について触れるも完全なニューアーギュメント。立論で述べなければならない内容。肯定側D1の補強②が間違っている点を指摘、ポイン トを挙げたが、立論の焼き直しである最終弁論としては逐次的過ぎた。

■<肯定側最終弁論>
突然、安心と安全の違いを持ち出し、全頭検査が不要である点を主張し始めたのは疑問。ゼロリスクはありえないと再度主張するも、定量的なリスク分析がされていない為、国産牛肉と米国産牛肉の危険性における差異が判断できなかった。

■<判定と総括>
唯一の争点である”食の安全性”を制した否定側の勝利。肯定側は”米国産牛肉”の輸入が再開されなければならない理由は全く述べておらず、『日本政府は米国産牛肉の輸入を再開すべし、是か否か?』という論題から外れた議論であった。

以上

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