講評

講評

論題

ネオディベート・ブートキャンプ 第2シーズン
第3回講義(2013年10月6日開催) A面第二試合 
「日本は出生前診断に基づく人口妊娠中絶を認めるべし」

講評:奥山 真

肯定側:ディベーターYO / ディベーターTU
否定側:ディベーターHI / ディベーターYT
【試合結果】:肯定側勝利
肯定側 3票 vs 否定側 0票

■<肯定側立論/ディベーターYO>
直前までパートナーとの密度の濃い打ち合わせを行った肯定側 YO 。

障害児を持つ母親、生まれてくる子ども、高齢出産を懸念する夫婦、
という3つのキャストからのメリットを列挙する順調な立ち上がり。

哲学)養育者の責任および母親の決定権を守る
M1)子どもを産む選択ができる
M2) 愛情を持てない不幸な子どもが生まれる
M3) 安心して子どもが産める

M1については、障害児を持つ両親のライフワークバランスが崩れている点を指摘。
父親が長時間労働の傾向にある状況でなお、経済的理由から母親はより多くの労働時間を求めているという点を、
証拠資料を挙げて論証した。加えて、将来に渡る障害児の世話に関する母親のストレスが、
戦火の最前線にいる兵士と同レベルである点を指摘。精神的な負担について、インパクトが大きいとした。

M2については、わが子が障害児だと分かった母親の精神的ショック、子どもに愛情が持てなくなるという点を、
アンケート結果から論証するも、「精神的ショック」=「子どもに愛情が持てない」という部分に論理の飛躍があり、
メリットとしては立証されていないと判定した。

M3については、以下の2点から高齢出産をためらう夫婦が安心して子どもを持てるメリットを説明した。

 証拠1)新型出生前診断の精度向上
 証拠2)高齢出産となる妊婦が100万人に昇っている現状

肯定側立論としては、メリット1および3に関して、一定の立証責任を果たしたスタートを切る。

映像学習の成果か、原稿に目を落とす時間は格段に少なくなっていた。
ナンバリング・ラベリングとワンセンテンス・ワンパーソンを組み合わせることで、
格段に説得力が増すので、次回ディベートでは特に意識をしてもらいたい。

■<否定側尋問/ディベーターYT>
しかし、対する否定側 YT による尋問は、波に乗り切れない。
肯定側立論の確認に終始する尋問となってしまう。

相手の論を浮き彫りにすることで、
論証の弱い部分をあらわにしたり、自説への布石を打つことにつなげるのが、
尋問の役割としては重要である為、単なる確認で終わらない工夫が必要となる。

また、人を魅了する話し方ができるディベーターYTの強みを活かす為には、
数多くの尋問をテンポよく繰り出すスタイルが合っていると推測する。

次回ディベートでは、争点ごとにグループ分けされた尋問リストの準備が不可欠であろう。

■<否定側立論/ディベーターHI>
続く否定側立論は、生命の選択・操作が許されないという立場をとった。

哲学)生命の操作は生命倫理に反する
D1)生命の選択につながる(=優性思想の助長)
D2) 出生前診断のリスク(=母体血清マーカーの危険性)

D1については、早期治療を目的とした出生前診断が中絶するツールとなっている点を指摘。
先天性障害のある子どもを抹殺していると完全に否定した。日本医師会の証拠資料を用い、
過去10年間で11,000件以上の中絶が行われているとした。

ただし、「生命の選択」という点について、胎児条項を認めてこなかった歴史的経緯や、
「胎児の生きる権利」について、法的な判断基準を示していないというキズが残ってしまった。

D2については、適切なカウンセリングが行われていない現状を示し、
マス・スクリーニングを行う前提条件が整っていないと指摘。
とりわけ母体血清マーカーについて、医学的な危険性があるとした。

どの程度のリスクがあるかという点については、定量的に示されなかった為、
D2のインパクトについてはよく分からないという判断をした。

■<肯定側尋問/ディベーターTU>
いつもは穏やかな肯定側 TU だが、気迫の尋問で一気に否定側に襲い掛かる。

まず否定側論拠の中心となる「胎児の人権」について、
民法が適用されるタイミングを確認。生まれた段階から適用される点を認めさせた。

続いて、障害児をもった母親の負担が大きいという点、
経済的・身体的負担に基づく中絶が合法である点、を否定側に認めさせる。

ここは否定側は素直に認めてはいけないポイントであったが、
肯定側 TU の気迫に押されたか、すべて認めてしまう。

試合の流れが肯定側に傾きはじめた。

■<否定側反駁/ディベーターYT>
否定側 YT と HIのチームは、台風の影響で前回欠席している。
その為、ディベート準備が1週間遅れてしまうというビハインドがあった。

チーム内でのすり合わせが十分でなかったか、
否定側反駁の調子が上がってこない。

有効な反駁を繰り出せず、悔しそうな表情をみせるディベーターYT。

劣勢の否定側に対して、肯定側がなおもキバを立てる。

■<肯定側反駁/ディベーターTU>
尋問で確認した点を足がかりに、否定側をかさにかかって攻め立てる肯定側 TU 。
「成り切りの美学」を体現した堂々たる反論であった。

手始めに、否定側の拠り所である「胎児の人権」について、民法の規定から存在しないと否定。

続いて、母体保護法に基づく中絶は合法である点に言及。
障害児を抱える夫婦の身体的&精神的負担を根拠に、中絶は問題ないとした。

さらには、マス・スクリーニングに問題ないというWHO(世界保健機構)の見解を引用し、
否定側D1に反証を加える。

否定側の論拠を叩き、肯定側主張を通した時点で、
否定側はもはやグロッキー寸前まで追い詰められる。

■<否定側最終弁論/ディベーターHI>
もはやここまでかと思われた否定側だったが、ディベーターHIは激しく抵抗。

「胎児の人権」について、22週目以降については存在するとしたが、
これは完全なレイトレスポンス(遅すぎる反論)となってしまう。

マス・スクリーニングが、親を容易な中絶に向かわせる、
ひいては、優性思想の助長につながるという主張を訴えた。

「生命の出来損ないこそが社会を進化させる・・・」という決め台詞の途中で、タイムオーバー。
最後まで聞いてみたいと思わせる、熱がこもった最終弁論であった。

■<肯定側最終弁論/ディベーターYO>
否定側の思わぬ抵抗にあいながらも、ディベーターYOは落ち着いてサバきにかかる。

争点を絞って、母親の権利 vs 胎児の権利という争点を中心にまとめ直した。

障害児を育てるという身体的&精神的負担は、一家の生活を脅かす現実的脅威である点、
胎児の権利はなく、胎児は母親の一部であるという点から、母親の選択が上回るとした。

■<総括および判定>
肯定側勝利。
M1については、肯定側尋問に対する否定側応答により、根拠が認められた格好となる。

M3については、否定側の反論がなかった為、メリットとして残る。

D1については、「胎児条項」に関する法的な説明がなく、また「胎児の権利」という点についても、
論証できなかった為、デメリットは発生しないと判定した。

デメリットが全て不成立、肯定側メリットが大きく残る。

ロゴス(論理)という側面からは肯定側が圧倒的に上回った試合であった。
しかしながら、パトス(人間の感情・心理、伝え方)という側面において、
否定側が粘りこんだ好試合であった。

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