講評

講評

論題

BM漢祭り2004 エキシビジョンマッチ(2004年2月)
「論題:日本政府は、裁判員制度を導入すべし」

講評:奥山真

肯定側:井上晋
否定側:ディベーターA・中村雅芳
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数15名
肯定側 57.54P(13票) 否定側 55.06P(2票)

■<概   略>
漢祭りパートⅡは、ディベートグラディエーター井上VSディベーターA・中村雅芳の変則タッグ戦でスタートした。
肯定側井上は、大上段から、『司法における民主主義の成熟』を目指す為、裁判員制度の導入による国民の直接参加の必要性を訴求。一方、否定側ディベーターA・中村チームは、国民の資質に問題があるとの観点から 『司法の信頼性低下』を理念に真っ向から肯定側プランに対抗。

■<肯定側立論>
◇司法の定義3点
 ┣①社会統制システム
 ┣②権力統制システム
 ┗③時代の良心を反映するシステム

◇プラン6点
 ┣①職業裁判官3名と裁判員6名の合議体(否認事件の場合)
 ┣②制度の対象は重大刑事裁判に限る
 ┣③20歳以上の成人から無作為抽出
 ┣④病気、家族の介護、等一定の条件で辞退可能
 ┣⑤裁判員は一生涯の守秘義務を負う
 ┗⑥裁判員を脅迫すると刑罰の対象となる

◇メリット1点
 ┗①民主主義の成熟

◇発生過程3点
 ┣①国民によるチェックアンドバランスが働く
 ┣②裁判に民意が反映
 ┗③国民への教育効果

司法の定義を3点に分けて述べた上で、裁判員制度がその定義に合致するとした上で、『民主主義の成熟』を旗印に掲げた立論。発生過程を3点に分けて説明しているが、雰囲気重視型の井上らしくラベルは何となく聞こえがいい、しかし多少の論理の飛躍が見られる。例えば、発生仮定①でいえば、職業裁判官と官僚機構が非常に類似している証拠資料を引用した後で、国民が裁判に入っていきチェックすることで解決すると主張するが、国民がどのように職業裁判官をチェックできるかは全く論証されていなかった。冷静にフローシートを辿ってみるとこの点に気付くが、(私は試合中)それに全く気付かなかった。井上がBMマジシャンと言われる所以でもあろう。ジャッジとしては、メリットの論証が十分ではなかったと判断。

■<否定側尋問>
続く、尋問はディベーターA担当であったが、歯切れの良い&よく練られている尋問内容であった。テンポも素晴らしくディベーターAの成長を裏付ける。しかし、その後の立論⇒反駁⇒最終弁論に活きたか、という点については課題が残る。タッグマッチにおける意思疎通の難しさを改めて感じる。

■<否定側立論>
◇デメリット3点
 ┣①裁判の公正さが損なわれる
 ┣②時間的、精神的な国民負担
 ┗③裁判員がおかざりとなる

中村雅芳による否定立論。司法への国民参加が司法への信頼を失墜させ、その原因が日本国民の資質にある、と主張。雅芳らしい豊富な証拠資料とロジック構築は適確な現状分析の上に立っており、非常に良質な立論であった。但し、デメリットの論証に注力するあまり、肯定側立論へのアタックが弱くなってしまったのは残念である。新人二人のキャリア不足によるものか、時間を意識した構成となっていなかった点は次回への反省材料にして欲しい。しかしながら、デメリット3点の論証はなされたと判断した。

■<肯定側尋問>
続いて井上による尋問。司法改革の必要性を認めさせた後で、司法改革の柱の一つ『司法における国民的基盤の確立』の必要性を認めさせる展開はうまかった。否定側はここでは必要性を認めず『国民が裁判に入る必要性はないし、できない』との立場を貫くべきであった。否定側の哲学が『裁判員制度が司法の信頼を失墜』であり、国民の資質を問題としているならなおさらである。

■<否定反駁~最終弁論>
雅芳の否定側立論に続く第一反駁は、既に十分論証されているデメ リット①『裁判の公正さが損なわれる』を補強する内容であった。一番大きいデメリットで勝ちきろうとする戦略か?!
ディベーターAの最終弁論は肯定側反駁に対するスポット反論となり、量・構成ともにいま一つと言う感は否めないが、肯定側反駁の中で主張された証拠資料不正引用疑惑を打ち消すことができたことはデメリット③の防御という点で機能したと言える。よってデメリット3点全て残ったと判断。

■<肯定反駁~最終弁論>
井上の第一反駁は、肯定側尋問の内容をうまく生かした構成。『国民的基盤の必要性』を認めた否定側の論理矛盾を指摘した。続いて、否定側立論で使われた『ドイツの例』を証拠資料の不正引用を指摘するも、肯定側ディベーターAの最終弁論で再反論の前に無効化されてしまう。
デメリット③以外への反論がなかった為、メリットを守りきることが勝利への最低条件となる。
肯定側最終弁論では否定側最後のスピーチで残った論点『国民のチェックアンドバランス』に集中して、丹念に反論していくが、ややニューアーギュメントに近い内容であった点は指摘しておきたい。立論からのリンクで言えば、唯一ここでは、裁判官に男性の多い日本の裁判における『Gender Bios』に言及し、女性の視点は重要とした主張のみを有効な判定材料とした。メリットは残るが発生仮定の論証不足より、発生確率は低いと判断。

■<判定と総括>
ディベート的には否定側の勝利だが、結果的に勝負としては肯定側が僅差で上回った。
ロゴス(論理)においては、否定側立論のデメリットの論証が大きく否定側が上回ったが、エトス(信頼感)、パトス(情熱)という点において、肯定側BMマジシャン井上に軍配が上がった。ジャッジ総数15名中13名が肯定側勝利としていた割には点差がそれほど離れていない点からも接戦であったと言える。ディベートにおける、ロゴス/エトス/パトスについて考えさせる結果と言えよう。
ロゴスの弱さを露呈した井上であったが、2月に続き僅差をモノにするたくましさ、生命力を感じた。昨年末から今年にかけて急速にアップしている人間力が影響していると思われる。今後の井上の変化に注目したい。
一方、敗れたとはいえ、ロジックの冴えを見せた雅芳、光る尋問を見せたディベーターAの今後も楽しみである。来月は雅芳vsディベーターAのガチンコシングル、同時期に入った新人同士の争いは注目の一戦である。

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