講評

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論題

BMニューディベートフロンティア2005 ふるいわけマッチ第2試合
「日本政府はデノミネーションを実施すべし」

講評:中村雅芳

肯定側:久保田浩 
否定側:中西夏雄
【試合結果】:肯定側勝利
ジャッジ総数12名
肯定側 6票(51.83P) 否定側 6票(50.66P)

■<概   略>
肯定側が、デノミを円の国際化の第一歩にすると主張するのに対し、否定側は円の国際化はデノミに依存しないとし、争点の絞られたぶつかりあいになった。

■<肯定側立論>
◇哲学・理念:『円の国際化のためにデノミが必要である』
◇プラン4点
 ┣①2007年1月よりデノミを実施する。銭・厘を発行する
 ┣②国民に周知を徹底する
 ┣③一定期間、新旧表示を義務付ける
 ┗④2010年12月までに新円を流通させる
◇メリット3点
 ┣①円の国際化の第一歩となる
 デノミによって円をアジアの基軸通貨への第一歩とし、ひいてはドル・ユーロの代替通貨になる。
   通貨の機能を以下3点で定義する。
    1.価値・尺度機能
    2.支払い・決済機能
    3.価値保蔵機能
   国際通貨として上記3点を満たすために、円は分かりやすくなくてはならない。
   円の基軸通貨化は日本の国際化の流れに沿っており重要である。
 ┣②景気を刺激する
   デノミによる経済効果を和光研究所の試算を用いて証明。
   コスト 2兆1600億円
   経済波及効果 5兆9103億円
 ┗③円の威信を上げる
   「1円で何を買えるか」が外国人に分かりやすくなるほど
   日本の威信がアップする。

円の国際化、特にアジアにおける基軸通貨を目指し、国際通貨に求められる要件を定義したのは面白い。ただこの時点で、デノミが円のアジア基軸通貨化の第一歩になるという証明はなく、否定側からの反論の余地を残した。

■<否定側尋問>
国際化の十分条件を問う。またデノミだけでは国際化しないかとの質問にYESを引き出せたのは戦略通りであろう。円の国際化は誰が必要だと言っているのかを尋ねたが、これは論題とはやや無関係であり、またその回答が政府であれ学者であれ次の展開には結びつかないため、意味をなさなかった。

■<否定側立論>
◇哲学・理念:『デノミによって円の国際化はもたらされない』
◇デメリット2点
 ┣①業界により損得が分かれる
  →デノミにより恩恵を受ける業界とコスト負担するだけの業界に分かれる。
   恩恵を受けない業界に対してコストを負担させるのは公平でない。
 ┗②国民心理がデフレにつながる
   給料が40万円から4000円に減ると、心理的に財布のヒモが
   固くなるのは人間の心理であろう。これによりデフレが起こる危険がある。

通貨が国際化する際の判断基準を投げかける。円が国際化しないのはデノミをしないからではないことを鈴木議員の言葉を用いて反論した。景気対策になる根拠の曖昧さ、資料の古さも用いてM②へも反論、これはD①の業界による不公平さも合わせて攻撃した。3つのメリットへの反論も丁寧であり、整った立論であった。

■<肯定側尋問>
国際化が重要であること、現状のままでは円は国際化しないこと、分かりやすいことの良さ、などを全て認めさせたのは久保田得意の戦略である。

■<否定第一反駁~肯定第一反駁>
否定側は、国際化の十分条件をピックアップし、その中にデノミが入っていないことを説明。また三菱総研の検証結果でデノミが円の国際化に寄与しないことも取り入れ、対ドル桁数の増減が重要でないことを主張した。
一方、肯定側は通貨の定義に則り、「分かりやすさ」が国際化にとって大事であることを再度説明。コスト負担になる金融業界にも長期的に見ればメリットになることも加えた。ただし分かりやすくすることによる直接のインパクトはこの時点では証明しきれていなかったか。

■<否定最終弁論~肯定最終弁論>
最終弁論は見ごたえのある展開になった。
否定側は、争点が「国際通貨にデノミが寄与するかしないか」であることを説明し、それが寄与しないことを再度アピール。このように、オーディエンスに対してポイントを絞らせるプレゼンは見事である。
一方、肯定側は「分かりやすさ」⇒「円の国際通貨化」につながることを経済基盤(GDP)を用いて説明。違った角度から立証できる視野の広さにジャッジはまたも難しくさせられた。

■<判定と総括>
第1試合でペアとして組んだ2人の対決というシビアな条件も手伝い、非常に噛み合った試合になった。
争点は「デノミが円の国際化につながるか」という1点に絞られた。否定側は円の国際化の十分条件を提示し、それにはデノミが含まれないことを丁寧に説明したが、欲を言えばもう少し違った角度からの証明があってもよかったか。
一方、肯定側はデノミが円の国際化につながることを、通貨の定義の意味や日本と他国の経済基盤の比較といったいくつかの観点から立証できた点でやや否定側を上回った。
判定票数は同数で、わずか1.18p差というふるいわけマッチを制した肯定側が午後の巴戦出場権を獲得。昨年11月にもわずか0.04p差の接戦を演じているこのカード。今後も2人の対決は楽しみである。

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